ヨーロッパ思想入門

2007年8月6日(Monday) 09:08pm
Rating: 4.5

岩波ジュニア新書の哲学入門書。
この一冊で哲学が何を問題としてきたのか、についての基調を理解できる。
『ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)』
岩田 靖夫



ジュニア新書ながら内容は本格的で、そのまま岩波新書として売れる(中高生に読んでほしいという出版社の意図を抜きに考えれば)。

哲学を勉強する際のアプローチは2種類に分かれると思う。
1つ目は、この本のように複数の思想家の主張の要点を並べて、歴史的なストーリーとして理解する方法。

この本では古代にさかのぼって、ギリシアの思想とヘブライの信仰が西洋思想の礎石となった、というストーリーで整理している。

古代思想を重点的に学ぶことの良さは「分かりやすい」に尽きる。

哲学は「生きるとはどういうことか」「存在とは何か」といったテーマを対象にしていて、問いはシンプルながら納得のいく答えを得ることが難しい。
時代が進むにつれて哲学はどんどん抽象的な内容に進んでいき、何について論じているのかが分かりづらくなった。
カントあたりでも思想史の中間地点だろうが”超越論的認識”と言われてもピンとくるものではないだろう。
浮世ばなれしていてとっかかりがないから分かりづらいのだ。

この本が焦点を当てている古代思想は、同じテーマを扱いながらもっと具体的な事件を手がかりに考えている。
たとえば、ソクラテスが死刑判決を受けた際に、脱走するか自ら毒を飲むかの究極の選択をいかに考えたか?というドラマ的事例なら難しいところはない。
事実は明白だから、あとはそれをいかに解釈するかだけが問われている。
毒を自ら飲んだことは勇気や信条の問題ではなく、もっと普遍的な結論だったという点に哲学がある。

もう1つのハイライトはヘブライの信仰に連なるイエス=キリストの死の物語だが、これもイエスという一人物が考えた結論は信仰抜きに衝撃的だ。
自分の好む者を愛するということは愛ではない、という発想は神を経由しなくても成立する。

どちらも2000年以上昔に考えられたものだが、彼らの理想論は当時からそれほど実現してはいない。
「いかに生きるか」という人の世の根本は、科学技術などで改善するものではなく、自分自身がいかに考えるかということに還ってくるということだろう。
事実、この本の後半では中世以降の思想家をギリシア、ヘブライの2つの観点で簡潔に整理しているが、見事に同じところをぐるぐる回っていることに気付く。

残る哲学学習の2つ目のアプローチとは、脂汗を流しながらそれぞれの原典を直接読み込むことに尽きるのだが、これは茨の道(避けることはできないが)だから本格的に哲学する人以外は現実的ではない。

そこでせめて入門書くらいかじり逃げしたい、ということになるのだが、この本なら強くおすすめできる。
分かりやすい導入で全体がうまく整理されるという点で、紛れもなく素晴らしい入門書と言える。

なお、この本は『“狐”が選んだ入門書』で紹介されていたもの。
“狐”山村はが学生の頃より歳をとってからの方が思想の理解が深まったということを

たとえそのころ岩田靖夫の懇切な文章があって、読むことができたにしても、さまざまな人間的・社会的な関係の渦のなかに放りこまれて生きることがなければ、とうていそこに書かれていることは理解の外だったと思います。

と語っている。
この本の影響力がジュニアだけにとどまらないという実感を述べたものだが、これは同感だ。
学生のときには気づかないが、人生は非常に制約されているもので、そこを体験することが実感のこもった理解につながる。

ただ、人生は最終的に実践しなければならないものだから、分からないなりにも哲学には若いうちから目を向けておくべきだと僕は思う。
年寄りになってから他人の人生と考え方を眺めて「ああそういう考え方もあるのか」と鑑賞したところで、できることは少ないだろう。

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“ヨーロッパ思想入門”へのトラックバック

  1. cotaro、明日の◎を読む Says:

    ターンエーの癒し…

    メイキング・オブ・ターンエーガンダム(Wikipedia)と言ってよいのだろうが、これに関わる期間が尋常ではなく、あの物語には富野監督の20年(以上)が色濃く反映されていた。
    『ターンエー…..